応援を力にあかりを灯し続ける
まちがうことを楽しめる世界へ

一般社団法人 注文をまちがえる料理店

2017年、認知症の方が楽しく働く場所をつくる目的で『注文をまちがえる料理店』が開店しました。「間違ったっていいじゃない」という優しい気持ちが、これからの私たちの未来にどのようなあかりを灯していくのでしょうか。また寄付がどのように生かされているのか、代表理事の和田行男さんにお伺いしました。

(代表理事の和田行男さん)

献立はハンバーグ、運ばれてきたものは

国内の認知症患者は、2025年に約700万人に達すると言われている。認知症とどう向き合っていくのかは、日本において大きな課題の一つとなっている。

『注文をまちがえる料理店』は、認知症の方がホールスタッフとして働くレストラン。常設の店舗はないが、2017年には期間限定で3回開店した。少し変わったこのレストランができたのは、理事であり、当時NHKのディレクターをしていた小国さんが、あるグループホームを取材で訪れたことがきかっけだった。

(小国さん(写真左)と和田さん(写真右))

そのグループホームでは、入居者が自らその日の献立を決め、料理をすることになっていて、当日は、小国さんも一緒に夕食を食べていくことになったそうだ。

そこで働いていたのが現代表理事の和田さん。和田さんが、その時の様子を語る。
「献立はハンバーグでした。入居者の皆さんは、食材を買い出しに行き、一生懸命料理を作られていました。そして、さあ食べよう、という時に運ばれてきたのは、ギョーザだったんです。介護現場で働く僕らとしては、よくあることだったので、『まあ、ギョーザでもいいか』と笑っていました。しかし、小国はその様子にとても驚いていました。「間違える」こと自体を、認知症の方とともに楽しむ。そのことがとても心に残ったようです」。

そして3年後、和田さんは再会した小国さんから、『注文をまちがえる料理店』の構想について相談を受け、すぐにやってみようと返事をした。考えに賛同した仲間が仲間を呼び、さまざまな業界のメンバーが集まってチームとなり、実行に向けて動き出す。そのような中で一番大切にしたのが、わざとまちがえるような仕掛けはしないことだ。

(イベント当日、スタッフみんなで)

「ある若年性認知症の女性のご主人がこうおっしゃっていました。『妻は、自分が間違ってしまうことがとても悲しいんです』。それを聞いたメンバー全員が、認知症の方たちも、本当は間違えたくないのだろうし、間違うということは、本人たちにとっても非常にセンシティブなことなのだと理解しました。『わざと間違えるような仕掛けはなしにしよう』そういう強い想いを共通認識として持てるようになりました」。

お客さんも、働くスタッフも、みんな笑顔

実施した3回のイベントには、50代から90代の認知症の方総勢30名ほどが、ホールスタッフとして参加した。運営側としては、働きやすい工夫をし、飲食店としての最低限のマナーには気を配ったが、それ以外は各自で考え自由に動いてもらうことが多かったという。

(忙しく働くスタッフも、自然と笑顔に)

「ぼくらが綿密にコントロールをしたわけでなく、その場にいらしたお客さんとホールスタッフたちがその場の空気を作り上げていました。お客さんはみんな笑顔でとても楽しんでらっしゃって、働くご本人たちにも笑顔が絶えなかった。全体を通してそんな温かい雰囲気が続いていました」。

「また、当日お客さんから頂いた代金をもとに、ホールスタッフの方には謝礼金をお支払いできました。認知症の方が働ける場所は少ないので、対価をきちんとお支払いすることを大事にしました。イベント全体を通じて、ご家族が喜んでくださったのが何よりもうれしかったです」。

和やかな雰囲気で幕をとじた『注文をまちがえる料理店』。和田さんにとって印象に残っているのが、当日行われたピアノ演奏だという。

(旦那さんの伴奏とともにピアノを演奏する女性)

「ある若年性認知症の女性の方は、ピアノ講師だったのですが、認知症が進行して人前でピアノを弾くことができなくなってしまっていました。開催場所のお店にたまたまピアノが置いてあり、その女性が興味を示されたので、イベント中のピアノ演奏をお願いしたんです。それから女性はご夫婦で猛特訓をし、本番にのぞみました。

本番当日、12回演奏した中で間違いなく弾けたのは最初の1回だけでした。一番多い時は5回程やり直しをしました。しかし、女性は途中でやめようとはしませんでした。隣に座る旦那さんも、お客さんに恐縮しながらも、やめさせようとはしなかった。お客さんも、ご本人が諦めずにピアノに向かっている姿を見て、笑顔で待ち続けました。そしてその空気が本人へも伝わり、最後まで弾き通すことができたのだと思います。失敗をとがめたら場の雰囲気は悪くなるけれども、受け入れたら『笑い』となっていく。そういう空気感がお店全体の中にありました」。

あかりを灯し続けていくために

3回のイベントが終わったのちは、国内をはじめ、世界各国のメディアからの問い合わせがあり、対応に追われる日々が続いた。当初は、有志で行う期間限定のイベントと考えていたが、予想外の反響に、運営メンバーは思わぬ決断を強いられることとなる。2018年4月、それまで実行委員会として集まっていたメンバーとともに、和田さんは法人としての道をスタートさせた。

「法人設立の数カ月後、Yahoo!ネット募金に登録しました。それまでは、ホームページを維持していくためのサーバー代など、法人運営に必要な経費も、ぎりぎりまで削る状態でしたが、毎月安定的に寄付をいただけるようになったことで、通帳とにらめっこする機会が減りました。僕らの活動は事業をして収入を得ているものではありませんし、団体で活動するメンバーも、みなボランティアとして参加しています。

(間違えても「ま、いっか」という意味が込められた、「てへぺろ」を表すロゴマーク)

イベントを開催する際には多くの資金が必要になり、そのための資金集めをする必要があります。でも、大きなイベントがない時にも、継続して応援してくれる人がいることはとてもありがたいです。一度灯したあかりを消さないために、寄付を通じて日々応援してくれる人がいることは一番の喜びです」。

2020年新たな形で日本から世界へ

(笑顔でイベントの様子や目指す未来を語る、和田さん)

「現在、『注文をまちがえる料理店』として、2020年に焦点を合わせた企画を検討し始めています。私たちが取り組んでいるテーマは、世界的にみても重要なことだと思います。世界の認知症患者は2050年に1億3千万人を超える見込みだそうで、認知症の方との関わりは世界共通の関心ごとです。病気の根治に人類はまだ到達しておらず、発症すると甘んじて受け入れるしかない状況です。しかし認知症になってもこんなふうに楽しく働ける、暮らせるということを示していくことは、未来に対しての大きな希望なのではないかとも思うんです。なので、日本に対して注目が集まる2020年に、『注文をまちがえる料理店』としての新たな取り組みを考えています。具体的な検討は、まだこれからなのですが…笑」。

寄付で実現できたこと一覧